24回    2008Nov.13.       金子信造

     B頭と胴

 第5回で、細胞からヒトへの大雑把な進化の道筋を示したが、さらにやや敷衍しておく。

 原始動物である、腔腸動物は内側と外側の二重のチューブからなり、外側のチューブが外胚葉上皮と、体を動かす筋肉━中胚葉の体壁筋肉で、内側のチューブが内胚葉上皮━腸と腸を動かす内臓平滑筋(中胚葉の内臓筋)からなる。

 胚葉ということばがでて、訳が分からないからと、これ以上読まない人もいるかと恐れるが、難しいことを言おうとしているのではない。簡単にいえば内胚葉は、のちに消化器や呼吸器へ、外胚葉は中枢神経感覚器官、表皮など、中胚葉は骨格、筋肉、循環器、排出器、生殖器などを形成することとなる。つまり将来の脊椎動物など、いわゆる高等動物の身体を作る基がここにあるということである。

 このチューブが海の中で栄養をとり入れ、新陳代謝して、やがて後口動物、脊椎動物、哺乳類へと進む訳である。

 20世紀も終わりに近い1970年ごろに腸内に脳の細胞であるニューロンとおなじものがあるという、それまでの細胞生理学に反する事実が次々と発見され、パラニューロンとよばれ、インパルスを伝達する。パラニューロンとそれがつくりだす脳腸ホルモンのはたらきが明らかになってきた。円口類のヤツメウナギ、さらに原始的な脊椎動物の直接の先祖であるナメクジウオなどの腸でも確かめられている。

 動物は感じて動くものである「動物が何を感じて、どのように動くのかといえば、腸管が食物と生殖の場をもとめて、体壁系がこの腸管を運ぶのである。したがって動物とは腸管の担体(運ぶもの)ということができる。」(「生物は重力が進化させた」西原克成著、講談社.p126)外皮と腸しかない生命体に化学走行性(栄養化学物には近づき毒から遠ざかる)があるということは、好き嫌いは“こころ”のはじめであるから、腸に“こころ”があるといってよい。

 進化して腸管が分化し、心臓、肺、肝臓などの内臓を形成し肚におさまる。神経管の頭端が膨らみ脳となり頭ができ、顔(鰓からできた内臓頭蓋)に口を中心に視覚、臭覚、聴覚など感覚器を生成分化する。そしてヒトは大脳新皮質をつくり意識が生まれる、脳科学は脳が中央司令塔ではなく体すべてと協調してはたらくことを明かしつつある、脳は身体の一器官なのである。心は肚にあるが、古代から日本では「やまとたましひ」(原日本人の思考作用)は“はら”にあるとされてきたのである。

 全身の運動の協調構造を生み出す中枢はここにあり、脳もそれに協調してはたらく。脳は生物の発展形態として、文化・文明を生み出す、生命の新しい次元を開く機能をもつ器官ではあるが、新皮質の意識や思惟といわれるはたらきは、自然の多様な流動性に対応するには、ごく限られたものであり、はじまったばかりの未熟なものである。だから、人はこれが本当だと思いこんでいたことを訂正せざるを得ないことしばしばである。それにも拘らず、今思っていることこそ本当だと思い、それを他人へ押し付けさえする性懲りもない人々がいる。これを教養の欠如という、分かってないことを、分かっていることと混同し反省のない人である、即ち、文化の理解を教養というが、分別できないことを、分からないと自覚できる人が教養ある人である。

 

 内臓は、肋骨の下の胸骨の一番下から腰椎にかけてたれさがって、体幹を二つに分けている横隔膜で包まれ、この筋幕が収縮すれば腹の中の内臓は押し下げられ、ゆるめれば上にあがる。また腹筋では、内臓を動かすのは縦方向に通る腹直筋の奥に横に通る腹横筋である。腹横筋が収縮すれば、腹は絞られて内臓は上にあがる。ゆるめれば下にさがる。この横隔膜と腹横筋を使うと、内臓の高さが変わり、日常動作の枠外であるが「五輪書」での“石火の打ち”や体術での密着状態で位置移動できない場合の重力による“くずし“などに使われる。後に述べる。

 横隔膜を抱くように、鳥籠型の肋骨がかぶって、その上に大胸筋や僧帽筋などその他多くの筋肉と、肩甲骨、肩関節、鎖骨などがのっており@上肢でふれた動きができる。

 肋骨は背骨から胸側へ通り、上7本は胸骨につなぎ、8〜10番は胸骨の下につづく肋軟骨につながり、一番下の1112番はまったく遊離して腹壁のうちに終わっている。

 背骨は上は頭蓋骨の底の大孔とつながり、下は骨盤の仙骨を背側につらぬいている、背中の中央を縦にS字型に鎖状につながる、ズレあうことのできる26っこの椎骨のあつまりである。

 

 以上、日常動作を成り立たせている人体についての当面説明に必要な最小限の事柄を取りまとめた。もっと知りたい人は人体解剖図など参照することを望む。

 

実技演習

片手取り各種

 

 仕事上の都合で、12月と来年1月のふた月、私は稽古にでられませんので、この続きは2月からとなります。                             

                                       了

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