29回   2009June.04      金子信造

 

B「体の進退」、足のはこび

『体の進退動作は、技法の上でも非常に大切である。すなわち、進退によって体の位置を変える場合、平静な、安定した気持ちが母体にならなければならない。しかもその安定した気持ちの上に安定した体の態勢が必要である。それには常に体を安定に導く運足(はこび)法に充分留意しなければならない。

 運足法は継足、歩足、転回足、転換足を基本にしているが、常に足の動きに従って体の安定した重心がその上に乗って行われなければならない。この両足の動かし方は、丁度水の上を歩く様な気持ちで、地面すれすれに運び、足先、すなわち指のほうから地につけることが大切である。』(植芝盛平監修、植芝吉祥丸著「合気道技法」光和堂、P56

 楽に立つ、脚では脛骨で立つ。つまり足裏は脛骨の真下、土ふまずのやや踵よりに重心が落ちていれば余計な筋力を使わずに立てるということである。足裏は地に平らに踏む感覚である。この時、日常動作からどうしても拇指球の力の抜けない人がほとんどである。そこで武蔵は、つま先を少しうけて、きびす(踵)を踏むと教えている(「五輪書」)。親指を少し上げると前に偏っている重力を脛骨の真下に通しやすくなる。移動するには行きたい側の脚の膝を行きたいほうに向けて股関節を外遷させ膝を抜くのである。拇指球で動こうとすると、動くときに一度力をためて蹴りださないと動けない。脛骨下ならどの方向にも膝を抜くだけで、即移動できる。野口三千三氏は骨盤から行きたいほうに次々に新たな足が生えるイメージであらゆる方向へ動く練習法を推奨している(「原初生命体としての人間」)。日常動作の身体図式では拇指球で蹴ったり、拇指球に体重を乗せて回ったりする力動感が調和的で力強く快適かもしれないが、これを切り替えないと技への道は開けない。日常動作そのままで移動の練習をしている人が多いが、意識を変えなければ下手を固めるだけである。

 拇指球で動こうとするということは、脚の前側の筋肉、大腿四等筋を使うということである。この筋肉は、踏み止まる、体の動きを停め安定させる働きをする。動くには殿筋側、大腿裏筋群を腸腰筋と連動してはたらかせるのである。拇指球で踏ん張ると、四方投げ、入り身投げ等々で投げた時、その場に足が居着いて止まってしまい、体幹が固まって、手で投げている。大腿裏筋群で動く、足、手、体幹の協調した統一体であれば、いつでもどこへでも動け、そこで動きが尽きはしない。

固まってしまわず、「柔軟に、周辺のわずかな現象、地物を利用して相手を吸収してしまわなければならない」(開祖)。動きを自在にする“はこび”を身につけるのが技への道である。

 

実技演習

正面打各種

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